入れ歯は、ご自分の歯(天然歯)よりしっかりかめない
総入れ歯のかむ力は、自分の歯でかんでいる力の約20%というデータがあります。
<咬合・咀嚼(そしゃく)圧>
「診査・診断に基づく総義歯の臨床 P224(天然歯と総義歯との咀嚼機能の差)」
天然歯(ご自分の歯):約50~90kg(強圧)
総義歯(総入れ歯) : 2~15kg
部分入れ歯の場合は、ご自分の歯が残っているので、実際には、総入れ歯よりはしっかりかめますね。ご自分の歯でかめていたのに、歯を抜いたあとに、入れ歯を入れなかったら全くかむことができませんから、そのままにしておくのは良くないわけです。
では、歯を抜いた後は、歯抜けの状態なの?その後はどうなるの?と心配になりますよね。
歯を抜いた後の選択肢としては、3つあります。
- ブリッジ
- 入れ歯
- インプラント
①ブリッジ


前後の歯で、抜歯した箇所(黒く塗られているところ)をおぎないます。
(見本は自費のブリッジ)
②入れ歯

ご自分の歯がなくなればなくなるほど、大きな入れ歯になります。
(見本は保険の入れ歯)
③インプラント

人工歯根といわれるチタンをあごの骨の中に埋め込み、それを土台として、上にかぶせものを装着する方法です。保険診療ではできません。
ちなみに、
④なにもしない、ぬけたまま
ということもできます。しかし、お勧めしません。
<その理由>
①前述のように、上下の歯でしっかりかめません
②抜けたところの後ろの歯が前の方に移動したり、挺出(歯がのびてくる)してきます
③前歯であれば、見た目がカッコわるいです
具体的には
例えば、第一大臼歯とよばれる奥歯が1本喪失した場合には、保険診療上、ブリッジという治療方法と、入れ歯という治療方法の2つの選択肢があります。
しかし、第一大臼歯・第二大臼歯といった、一番奥の歯2本を喪失してしまった場合(親知らずはない)には、保険診療上、入れ歯という治療方法のみとなります。 それ以上、ご自分の歯がない場合はさらに大きな入れ歯になります。
患者として歯科医院を受診した場合、やはり一番心配なことは費用面だと思いますので、当院では治療費のことを第一に考え、まずは保険診療で作製できる入れ歯のご提案をさせていただいております。
選択肢のひとつに入れ歯がはいったのなら
一つ目の呼び方
(1)部分的な入れ歯
(2)総入れ歯
二つ目の呼び方
①保険で作製した入れ歯
②自由診療(=自費治療)で作製した入れ歯
保険の入れ歯の種類や材料は、出来栄えが少し制限されます
したがって、審美的・機能的・付け心地をよりよくしたいといった場合は、自由診療である、軟性義歯や金属床義歯といった治療方法をご提案させていただくことになります。
当院の自由診療で作製する入れ歯には
1)軟性義歯








少し柔らかめの素材を使用した入れ歯で、クラスプと呼ばれるバネがついていないタイプ。
軟性義歯は1-3本程度の少数歯だけ歯がない場合(特に、前歯)に効果的です。バネがないので、特に女性からは好評です。
2)金属床義歯




歯ぐきに接する面のほとんどが、保険の入れ歯より薄い金属で覆われるため、付け心地がよいタイプ。
金属床義歯は、大きな入れ歯にも対応しています。なんといってもとても薄いので付け心地がとっても気持ちいいです。当院で作製する金属床義歯は、大部分の患者さまに20年以上快適に使用していただいています。
保険の入れ歯と自費の入れ歯って、何がちがうの?


保険の入れ歯
メリット
保険診療費用で作製可能。
デメリット
ピンク色と白色のところがすべてプラスチック製であり、強度が弱い。強度を増すために、ある程度の厚みが必要となる。人によっては、オエっとなったり、しゃべりにくくなったりする。


自費の入れ歯
メリット
入れ歯の厚みがかなり薄い。異物感がかなり減る。熱を伝えやすい。強度がある。
デメリット
高価になる。
場合によっては、入れ歯の修理が難しいこともある。
当院での金属床義歯を使用されている、実際の患者様の症例


2010年10月に上あごの金属床義歯を作製。左上の前歯部の修理を経て、現在(2019年11月)へ。ところどころ汚れはあるものの、9年経過し、良好である。

1994年6月に下あごの金属床義歯を作製。左下の小臼歯部の修理を経て、現在(2019年11月)へ。25年経過し良好である。
アタッチメント義歯というものもあります
アタッチメント義歯とは、雄雌の差し込み式になっている維持装置が、入れ歯とご自身の歯(場合によってはインプラント)に組み込まれている入れ歯のことです。入れ歯にアタッチメントを組み込むと、装置自体は目立たず、入れ歯が外れにくくなります。
保険診療でできる入れ歯にはこの概念はありませんので、自由診療となります。
アタッチメントには、(1)磁石や(2)ボールなどがあります。



(1)マグネットの入れ歯とは
マグネットの入れ歯とは、歯科用語で、磁性アタッチメントデンチャー(磁石義歯、マグネットデンチャー)といわれています。
まず、マグネットの入れ歯についてご説明いたします。
磁性アタッチメントデンチャーとは、ご自分の歯の中に磁石をくっつけることができる金属(キーパー、磁性ステンレス)を入れ、相対する箇所の入れ歯には磁石を埋め込んで磁力で維持させる入れ歯のことです。クラスプと呼ばれる入れ歯のバネ(金具、留め具、針金)を使用しなくてもよいことが最大のメリットになります。
使用するのは小型磁石ですが、強力な吸着力があるため、安定性が高く、入れ歯がずれたりすることがなくなります。一方で、側方から大きな力がかかった場合は、外れて力を逃がし、歯の根っこにかかる負担を軽減できる、と一般的には言われています。
マグネットの入れ歯の、一般的なメリットデメリット
メリット
- 入れ歯のバネを使用せず、見た目を良くすることができる
- 入れ歯が落ちたりずれたりせず、安定している
- 無理な力が加わるとはずれ、歯の根っこに負荷をかけ過ぎない
デメリット
- 歯が少しでも残っていないとそもそもできない(インプラント支台であれば可能)
- 保険適用外の治療になるため、治療費が高額になる
- 入れ歯を装着したままMRI撮影をしたりMR室に入室すると、義歯が飛び出したりして危険である
- MRI画像の金属アーチファクト(画像のゆがみ)により診断が困難になる。歯の中の金属を外さなければならなくなることがある。
- 金属アレルギーを起こす可能性がある(ネオジム磁石そのものではなく、磁石の表面に施されているメッキによっておこると考えられている)
- ペースメーカーが埋め込まれているとできない
日本磁気歯科学会雑誌 21巻 1号 2012年 参考
現在、当院ではマグネットの入れ歯は作製しておりません。
なぜならば、マグネットの入れ歯を入れてから2-3年は調子がいいのですが、5年くらい経過すると、歯の根っこそのものが弱ってきてしまうからです。先ほどメリットの項目に、「歯の根っこに負荷をかけ過ぎない」とありましたが、実際の患者様の経過では、そうではない結果になることが多かったのです。歯の根っこが弱くなり歯を抜くことになったとしても、マグネットの入れ歯を修理すればある程度は使用できます。しかし、せっかく安くない自由診療の入れ歯を作ったのに、そのメリットを効果的に使い続けられないのでは、歯医者として患者様に申し訳ないと思います。
(ただし、この意見は、あくまで一個人としての見解です。マグネットの入れ歯を好んで行っている方もいらっしゃいます、治療に関しては様々な考え方があります。)
こんな方はいらっしゃいませんか?
・入れ歯ってこんなもんでしょ?
・合わないし、痛いから入れ歯は外したままなんだよね…
・しゃべりにくい
・上の入れ歯が気持ち悪い
・入れ歯が何度もこわれる
・バネがみえていやだ
当院の大先生は、開業から現在まで、入れ歯の治療・勉強を続けています。入れ歯の悩みごとや困りごとがありましたら、ぜひご相談下さい。
(2020年11月更新)